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ペルソナ4、主花に関する覚書。 小説。小話等をupしていきます。 細々と、のんびりと。since2009.7.26
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※クリスマスイブイベント直後

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きぃん、と。音の無い音がする。

酷く耳が痛んだ。

咄嗟に、両手で耳を塞ぎ、そして次の瞬間。


俺は。







*  *  *


電話してきたのは陽介だった。
すごく、不本意なんだぜ、って気持ちが丸見えな口調で
男ばっかでクリスマスすることになったから、俺んちで。って。


やっぱりこう言う日は二人っきりでいたかった?
そんな声するなら言っちまえばよかったのに。
クマきちがクリスマスするの、すげぇ楽しみにしてっから。って笑ってた。
バカだな、ホントに。
でも、そういうトコも、お前のいい所。


陽介の家に行くのはしばらく振りで、密かに楽しみだったんだけど。
いろいろ事情があって…結局、堂島家の俺の部屋でのパーティ。
あまり広くは無い俺の部屋は、男ばっかり4人も納まればとても狭く感じる。

居間で、というのも考えたんだけど…。
いつもそこにいるはずの姿が今は無く。
まだ新しいコタツの、窓側の、テレビ前の席。
そこにいるだけで胸が痛んだから。




クマはプレゼント用意してきたクマよー!
…お、俺も。手作りだぜ!?
え、お前ら用意してんの?
センセイはケーキ用意してくれたクマ!
あぁあ俺は…。



色気も何もあったもんじゃない。
クリスマスだってだけの、いつもみんなとつるんでるのとさして変わらない。
そこにただケーキがプラスされただけで。
俺も、インスタントのコーヒーやら、クマと陽介がジュネスで買ってきたお茶やジュースで軽く場酔いしながら、
バカみたいに騒いで、笑って。日付が変わる少し前にお開きになった。


皆を見送って、玄関先でバイバイ。
次合うのはいつかなー、初詣?みんなで一緒に行く?
犯人も捕まえたし、キツネも暇そうにしてるだろうな。


少し話して、みんなばらばらな方角へ帰って行った。
クマは陽介と一緒じゃないのかって聞いたら、クマは用事があるクマよー!としか教えてもらえなかった。
もともとコイツの行動も読めないから、深くは追求しなかったが。


変な奴ーって言って、笑った陽介とふと目が合った。
冷たい空気に晒されて少し赤くなったきれいな鼻筋。
「うー。寒ィな、お前も風邪引く前に家入れよ」
見惚れてる暇もなく、陽介はそういって手を振って。
またな、おやすみって俺も手を振って別れた。





さすがに冷えた指先をこすり合わせながら、誰もいない家へ帰る。
皆が使った食器がいくつもシンクに詰め込まれている。
片付けなきゃなって思うけど、今はそんな気になれない。
明日でいいかな。

さっきまで騒いで、笑って。みんなといた。
急に一人になったこの家が酷く広く感じられた。

静か過ぎて、耳が痛かった。
シーン、なんてそんな効果音じゃなくて。
まるで耳鳴りだ。


思わず、耳を塞ぎ、そして次の瞬間。
思うより先に身体が動いた。




* * *


上着も取らず、乱暴に靴を履き。
キンと冷えた住宅街を駆け抜ける。
まだそんな時間は経ってない。この先に、まだいるはず。
って言うか、いてくれ。
半ば祈りに近い思いで走った。


その先に見えた、ジライヤみたいな赤いマフラー。
耳に赤いヘッドフォン。
揺れるオレンジのショルダー。



あぁ、よかった。いた。


「うわっ…!」
ヘッドフォンをつけたままだった陽介は、奇襲をくらったように驚いた声を上げた。
目の前の、その背中を逃すまいと。俺は陽介を後ろから思い切り抱きしめていた。
上がった自分の息が白い。頬に触れる陽介の頬も冷たくて。
強く抱きしめたまま、その頬を摺り寄せる。
「び、っくりしたー…!真鍋?」
「ごめん、陽介。俺…」
自分でも、なんて情けない声を出すんだ、って思った。
でも今はそんなの、気にしてる余裕が無い。

「ちょ、真鍋お前…そんなカッコで。風邪引くっつったろ」
俺の腕の中に納まったまま、陽介はごそごそとヘッドフォンをはずした。
家の中に居たのと同じ格好で外に居る俺に気づいて
その形のいい眉を寄せて、腕の中で身体をこっちに向けた。
一瞬だけ視線があって、その近さに照れたのか陽介は咄嗟に目を伏せる。
長い睫毛に目を奪われて、思わず瞼にくちづけて、再び腕に力を込めた。




「もう少し、お前と居たかった」
自分でも驚くほどに、素直にそう告げていた。
陽介は何も口に出さなかったが、その代わりに腕が背中に回ってきて
俺の冷えた背中を、ぎゅうっと抱きしめて、そしてさすってくれる。


それから、もと来た道を戻った。
陽介が俺に、マフラーを貸してくれた。一度断ったんだけど。
おとなしくやっとけって聞かないから。

いつの間にか、ちらちらと雪が舞っている。
あぁ、だからこんなに空気がキンとしてたんだな。




戸締りもせずに飛び出してきた、明かりのつきっぱなしの堂島家。
陽介と二人また二階に上がって、自室に入る。
片付けもなにもさっきのままで、二人して笑ってしまう。
「あーあ」
ひとしきり笑ってから、陽介がそう漏らす。
ん?って聞き返したら、照れたような笑顔のままで改めて抱きしめられた。
「やっぱり、二人でやるべきだったかな、クリスマス。」
肩に頬を寄せて囁くように言った言葉が可愛くて。
心臓をわしづかみにされたような気持ちで、強く、その少し華奢な身体を抱きしめ返した。
「まだ、イブが終わっただけだろ。…クリスマスはまだ24時間残ってる。」


「…航。」
俺の大好きな笑顔で、声で。俺の名前を呼んだ。

「メリークリスマス。」
ふたりで笑いあって、甘ったるい空気の中でキスをした。
きっとあとで思い出したら、凄く恥ずかしいんだ。
それでもいい、この時間、この場所にお前が居てくれたら。










* * *


なぁ。
初詣でお願いしちゃおーか。
航がまたなんかあってこっちに戻ってきちゃいますよーにって。

なんかって、お前な…。
まぁ、なんにも無くても来るけど。お前に会いたいし。

うん、連休とか…泊まりで。俺ンチ、いいし。
あ、俺もたまにはお前んトコ行ったりしてみてーな。

おいでおいで。
なんの面白味もないマンションだけど。

面白味ねーとか。言うなって。
お前が居るとこってのが、イイんじゃん。





シングルの毛布と布団を取り合いながら、二人で眠くなるまで話した。
裸の肩を抱いて、時々キスして。
さっきまで凍りそうだった俺の心はすっかり融かされて。
一筋だけ…涙となって零れ落ちた。









俺を特別だって言ってくれた、この愛しい存在。
共に戦ってきた、かけがえのない仲間たち。
その中で、一番近くで俺の支えにもなってくれた、相棒。


春になって、一人都会へ帰るまで。
めいっぱい一緒にいようと思った。
離れる時が辛いって解ってる。でも、後悔したって流れる時間は戻らない。
それなら、俺は後悔したくない。



いつのまにか眠ってしまった陽介の寝顔をぼんやりと眺めながら、
別に、キリスト教徒ではないが
聖なる夜に誓った。
カーテンがしまっていて確認は出来ないけど、
外は静まり返っている。
雪がつもりはじめてるのかもしれない。


朝目が覚めたら、朝ごはんを食べて。
菜々子と叔父さんのお見舞いに行こう。
ジュネスでクリスマスプレゼントを買っていこうか。


そんな事を考えながら。
俺もいつしか眠りに落ちていた。

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